リヴェットはフランス映画史上最高の魔術的ファンタジーの作家である。
『セリーヌとジュリーは舟でゆく』のヒロインは魔法のボンボンを食べて異世界へ行き、
殺人事件をめぐる冒険に飛びこむ。まるで不思議の国のアリスのように。
『デュエル』は、太陽の女と月の女が決闘する話。
『ノロワ』は、弟を殺された女が海賊の女首領に復讐する話。
『北の橋』では、二人組の女がパリを双六の盤のように回って敵を探す。心躍る冒険の数々。
その女たちの魅力なこと! リヴェットの魔法映画で大活躍するのはつねに美しい女の子なのだ。
彼女たちの纏う衣裳の華麗さにもうっとりする。原色を大胆にちりばめた色彩にも。
迷宮のような舞台設計にも。自由自在に空間を広げるカメラの動きにも。
リヴェット映画の真の魔術が、ついに日本で明かされる。
中条省平(フランス文学者・学習院大学教授)
Celine et Julie vont en bateau ©1974 Les Films du losange
Jacques Rivette ジャック・リヴェット
1928年3月1日、フランス北部の都市ルーアンに生まれる。49年にパリのシネマテークでフランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダール、エリック・ロメールらに出会う。ロメールが主宰するシネクラブ・デュ・カルティエ・ラタン発行の機関誌「ラ・ガゼット・デュ・シネマ」に携わるものの、「カイエ・デュ・シネマ」誌の創刊に合わせ同誌は廃刊、以後「カイエ」誌にて多くの優れた映画批評を執筆。63年から3年間に渡って「カイエ」誌の編集長を務めている。映画監督としては49年に初の短編を、そして56年にはクロード・シャブロル製作で『王手飛車取り』を発表。60年に『パリはわれらのもの』で長編映画デビュー。以降、内容が反宗教的と判断され一時上映禁止となったアンナ・カリーナ主演の『修道女』(66)や12時間を超える長尺作『アウト・ワン』(71)など話題作を手がける。今回上映される『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(74)をはじめとした5作は、ヌーヴェルヴァーグの作家たちの中でも極めて個性的だったリヴェットが最も精力的に活動していた中期の作品群にあたる。その後も『地に堕ちた愛』(84)、『彼女たちの舞台』(89)など傑作を連発、中でも第44回カンヌ国際映画祭で審査員グランプリを受賞した『美しき諍い女』(91)は日本でも多くの観客を集めた。2000年代に入っても創作意欲は衰えず、『恋ごころ』(01)、『ランジェ公爵夫人』(07)などで瑞々しい感性を見せるも、2016年1月29日、パリにて死去。87歳没。